音律とは何か 平均律・純正律・中全音律などの違いを知る

音楽理論の基礎構造

現在、私たちが日常的に触れているピアノなどの鍵盤楽器では、平均律が前提になっていることがほとんどです。そのため、「ドレミファソラシド」の並び方や、どの調で弾いても同じように使えることを、あまり疑わずに受け止めているかもしれません。

ですが、歴史をたどると、音の高さの並べ方にはいくつもの考え方がありました。特に鍵盤楽器の世界では、どの音程を美しく響かせるか、どの調を使いやすくするかによって、さまざまな音律が工夫されてきました。

この点は音楽理論というより、実際の響きの問題としてとても興味深いところです。同じ和音でも、音律が変わると濁り方や落ち着き方が変わり、曲全体の表情まで違って聞こえることがあります。

現代の電子ピアノには、音律を切り替えられる機能を持つ機種もあります。ピアノ音色だけでなく、チェンバロやオルガンの音色に切り替えて聴き比べてみると、平均律では気づきにくい響きの差がわかることがあります。音律は理論として覚えるだけでなく、実際に鳴らしてみると理解が深まります。

音律とは何か

音律とは、1オクターブの中の音の間隔をどのように決めるかという考え方です。鍵盤楽器では12の音を使いますが、その12音を完全に均等に並べるのか、ある音程を優先して少しずつ違う幅で並べるのかによって、響きが変わります。

ここで大切なのは、どの音律も「間違い」ではなく、何を美しくしたいかによって作られているという点です。たとえば、

  • どの調でも同じように演奏しやすくしたい
  • 3度の和音をできるだけ澄んだ響きにしたい
  • 5度や4度を美しく保ちたい
  • 転調したときに調ごとの個性を残したい

といった目的の違いが、音律の違いにつながっています。

平均律

平均律(Equal Temperament)は、1オクターブを12の等しい間隔に分けた音律です。現在のピアノ調律で最も一般的に使われている方法であり、現代の音楽教育でも基本になっています。

平均律の大きな利点は、どの調でもほぼ同じ感覚で演奏できることです。ハ長調でも変ニ長調でも、和音の性格が極端に崩れにくく、自由に転調しやすくなります。そのため、調の数が多い作品や、複雑な和声を含む作品には非常に便利です。

その一方で、すべてを均等に整えているため、純正律のような「ぴたりと重なる和音の透明感」は少し薄れます。平均律は、どこか一か所を極端によくするのではなく、全体の使いやすさを優先した音律だと考えるとわかりやすいです。

純正律

純正律(Pure Temperament)は、自然倍音に近い関係をもとに音程を整える音律です。主要三和音が非常に美しく、濁りの少ない響きになるのが大きな特徴です。合唱で和音がよく溶け合って聞こえるときには、純正律に近い関係が生まれていることがあります。

純正律の魅力は、和音がまっすぐ整って聞こえることです。特に主和音や属和音のような基本的な和音では、平均律よりも澄んだ印象になることがあります。

ただし、ある調で美しく整えると、別の調では音程の関係がずれやすくなります。そのため、自由な転調を前提とする鍵盤楽曲には扱いにくい面があります。

ピタゴラス音律

ピタゴラス音律(Pythagorean Temperament)は、完全5度を積み重ねて音を作っていく考え方に基づく音律です。古代ギリシアの哲学者ピタゴラスの名と結びつけて語られることが多く、古い理論的背景を持つ音律として知られています。

この音律では、5度と4度の響きが非常に明快になります。そのため、旋律的な動きや、5度を骨格とする響きには独特の整い方があります。その一方で、3度の和音は純正律ほど滑らかには重ならず、少し硬い、あるいはうなりを感じる響きになります。

和音を重ねた厚い響きよりも、旋律線や5度音程の美しさに重心がある音律として捉えると、その性格が見えてくるかと思います。

中全音律

中全音律(Meantone Temperament)は、ピタゴラス音律で目立ちやすかった3度の濁りを抑える方向で工夫された音律です。16世紀後半から18世紀後半にかけて広く用いられ、特に和声音楽が豊かになっていく時代の鍵盤楽器と相性がよいとされています。

この音律では、主要三和音の響きがかなり美しく整います。ルネサンス後期からバロック初期にかけてのチェンバロやオルガンの音楽を聴くと、中全音律の響きが曲想によく合うと感じることがあります。ただし、使いやすい調と使いにくい調の差がはっきりしやすく、転調が多い作品では制約も出てきます。

平均律のようにすべてを均一にする前の時代に、和音の美しさを重視して作られた音律として理解すると位置づけがわかりやすいです。

ヴェルクマイスター音律とキリンベルガー音律

ヴェルクマイスター音律(Werckmeister)キリンベルガー音律(Kirnberger)は、平均律に向かう途中の「よく調整された音律」として扱われることがあります。中全音律やピタゴラス音律の考え方を組み合わせながら、特定の調だけが極端に使いにくくならないよう工夫された音律です。

両者は考え方が近い部分もありますが、どこにどの程度のゆがみを配分するかが異なります。そのため、同じ曲でも音律を変えると、調による色合いや和音の表情が変わって聞こえることがあります。

この違いは、平均律に慣れた耳には最初はわかりにくいかもしれませんが、チェンバロ音色やオルガン音色でゆっくり聴くと、調ごとの個性が少しずつ感じ取れることがあります。

バロックから古典派へ向かう時代の作品を考えるときには、こうした音律の存在を知っておくと、調による印象の差をより具体的に想像しやすくなります。

電子ピアノで聴き比べるときのポイント

電子ピアノで音律を切り替えられる場合は、単に切り替えるだけでなく、同じフレーズをいくつかの音律で弾いて比べると違いがわかりやすくなります。
たとえば次のような方法があります。

  • ハ長調の主和音、属和音、下属和音を順に鳴らす
  • C→G→Am→F のような基本的な和声進行を弾く
  • チェンバロ音色やオルガン音色にして、和音の濁り方や整い方を聞く
  • 同じ曲を複数の調で弾いて、音律ごとの差を確かめる

平均律では自然に聞こえる進行でも、別の音律ではある和音だけが特に澄んだり、逆に少し緊張感を帯びたりすることがあります。

音律の違いは、単音よりも和音や終止の場面で感じ取りやすいです。

音律の違いを知る面白さ

現代の私たちは平均律を当然のものとして受け止めていますが、歴史の中では「どの音程を優先するか」という問題に、多くの試行錯誤がありました。そのため、音律の話は単なる昔の知識ではなく、音楽の響きそのものに向き合う話でもあります。

同じ曲でも、どの音律で鳴らすかによって、和音の明るさ、落ち着き方、緊張感の出方が変わることがあります。電子ピアノの機能を使って実際に聴き比べてみると、音律は抽象的な理論ではなく、耳で感じられる違いとして理解しやすくなります。

平均律だけを前提にするのではなく、歴史的にさまざまな音律が使われてきたことを知ると、鍵盤楽器の響きや作品の受け止め方にも、時代ごとの違いがあることが見えてきます。

 

 

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